大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(ワ)8132号 判決 1961年8月15日

原告 大嵩キヨ

右訴訟代理人弁護士 谷村直雄

被告 鈴木徳太郎

被告 鈴木スガ

右両名訴訟代理人弁護士 木暮勝利

久家惺道

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

東京都渋谷区幡ヶ谷笹塚町一〇四五番地の二五の宅地三〇坪九合二勺が訴外小野木商事合資会社の所有であること、原告が右宅地を右訴外会社から賃借して右宅地上に建物を所有して居住していること、もと訴外会社所有にかかる同番地の一七の宅地一劃が原告主張のごとく分筆され分譲または賃貸されたこと(本件係争地を含む同番の一九の宅地は昭和三〇年八月被告鈴木スガが譲り受け同被告は右土地上に建物を所有してこの建物を訴外原田某に賃貸しており、同番の二六の土地は被告鈴木徳太郎が右訴外会社より賃借して自ら建物を建築居住している)、被告らが原告の主張のころ原告に対し本件係争地の通行を拒み原告主張の木戸の部分の外側に垣根を設け針金で補強したことはいずれも当事者間に争いがない。

まず原告が居住する一〇四五番地の二五の宅地三〇坪九合二勺が袋地であるか否かにつき争があるので判断するに成立に争いのない乙第三号証の二乙第四号証の二、証人飯田満の証言、原告並びに被告鈴木徳太郎各本人尋問の結果および当裁判所の検証の結果を合せ考えると原告は昭和二四年八月ごろ現に居住する右の宅地を訴外会社の管理人たる飯田満から賃借したが、当時その附近一帯は戦災の焼跡であつたので原告は本件係争地を含め自由な場所を通つて公路へ出入していたこと、訴外会社はもと同所一〇四五番地の一七の宅地一劃を原告主張のごとく分筆するにあたり同番の二三、二四、二五、二六の各宅地は同番の一九、二〇、二一、二二の各宅地により囲繞せられる結果となるので右同番の二三、二四、二五、二六の各宅地のために被告主張のごとく各宅地の側から三尺ずつ取り同所に巾六尺の鉤型の私道を設置し、同番の二〇、二一、二三、二四の各宅地譲渡に際しその都度それぞれの買受人に対し当該土地のうち被告主張のごとき各一部に右の私道があることを確認せしめ各買受人もそれを承諾したこと、しかしその後においても本件係争地が閉鎖されないままであつたので原告は本件係争地を通つて公路へ出入することが便利なまま右の私道よりも何ら通行権のない本件係争地を事実上より多く通行に使用してきたこと、しかるに昭和二六年八月訴外山本直正が同番の二三、二四の宅地の所有権を取得し右の宅地上に居宅を建築すると間もなく境界線いつぱいに垣根を設け前記私道のうち自己の所有部分を閉鎖しその後同番の二〇に居住する訴外岡野敏一も右私道のうち自己の所有に属する同番の一九に接する巾三尺の部分に生垣を設け結局私道は訴外山本、同岡野により閉鎖される結果になつたので原告はその後はもつぱら本件係争地を通路として使用し公路へ出入していたところ、被告らによつて原告主張のころ原告主張の場所に原告主張のような工作物が設置された結果(この事実は当事者間に争がない)原告の本件係争地による公路への出入もきわめて困難となつたことが認められ他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば訴外会社は前記一〇四五番の一七を分筆の結果そのままでは袋地となる同番の二三、二四、二五、二六の各宅地のため前記私道を設置したものであり、これは民法第二一三条の趣旨にそうものであるから、この私道を通行し得る権利は当然これら各宅地の所有権の一内容として存続するものと考えられ、従つて右訴外会社から同番の二五を賃借する原告および同番の二六を賃借する被告らは右私道につき当然通行権を主張行使できる状態にあつたものというべきであり、少くとも賃貸人たる訴外会社がその所有権の一内容として有する右通行権を代位行使し得るものというべきであり、また訴外会社から同番の二〇を譲り受けた訴外永井、同番の二一を譲り受けた訴外沢、同番の二三、二四を譲り受けた訴外山本および右永井からさらに同番の二〇を譲り受けた訴外岡野はこれらの土地を譲り受けたことにより右私道敷にあたる他の土地を通行し得るとともに他の土地のため自己の土地の通行を受忍する負担を負うものというべきであるから、本件係争地の有無にかかわらず原告の現に居住する同番の二五はあらかじめ設置された右私道により公路に通じていたものというべきで、結局本来袋地というを得ないものである。ただ前記認定のとおり訴外山本同岡野らによつて不当に右私道が閉鎖された結果事実上右私道の通行が困難となり、本件係争地によるのでなければ公路への出入が事実上きわめて困難になつたというにすぎないのである。しかし訴外山本、同岡野らが右私道をほしいままに閉鎖することにより原告ら奥地利用者に対する右私道の通行許容義務を当然に免がれるものでもなく原告は依然、同人らに対し右私道の通行権を主張しうるものということができるから、原告は少くとも訴外会社に代位して右私道を妨害する山本らに対しその通行を受忍せしめ得べきものであつて、本件係争地に対し通行権を主張するのは失当といわねばならない。なお検証の結果と弁論の全趣旨によれば被告らは本件係争地の西端に生垣を設けて原告の通行を拒んでいることが明らかで、前記私道敷は右被告スガの所有地(一〇四五番の一九)の西側も三尺の幅でこれに供されているから本来右部分について通行の妨害行為をなし得ないはずであるが、被告徳太郎本人尋問の結果によれば被告らは右私道敷の復活には異議なく、そのさいは直ちに右生垣をとり除く旨言明しているところであり、原告の本訴請求は本件係争地の通行を前提とするものであるから右部分についてはあえて通行権確認ないし通行妨害禁止を宣言する必要はないものと認める。

よつて原告の本訴請求はその余の判断をするまでもなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例